山内コアバリューデザイン合同会社
代表 山内 由紀夫氏
都内信用金庫のシステム部門、証券運用部門、経営企画部門を経て、IR支援会社において企業分析、アニュアルレポート・統合報告書・CSRレポートの企画・編集コンサルティングに携わる。2018年からはメディア系コンサルティング・ファームで財務、非財務の両面からバランスの取れた価値創造ストーリーの構築を支援。2021年7月、山内コアバリューデザイン合同会社設立。
株式会社大伸社コミュニケーションデザイン
プロデューサー 梅村 茂樹
アートディレクター 廣瀬 妙
自社らしい価値創造ストーリーをつくるために必要なものは
万人の幸せではなく、
自社だから目指せるパーパスを
廣瀬:企業の本質的な価値を伝え、読み手に納得感のある価値創造ストーリーを提示するためには、何が大切だと思われますか?
山内氏:価値創造ストーリーの重要性は多くの企業で認識されはじめていますが、「自社が目指す姿」という点で言えば、"万人の幸せのため"といったような、抽象的で大きな目標を掲げる傾向があります。しかし、世界的に影響力のある大企業であれば別ですが、そうでない企業が、あまりに壮大すぎる目標を掲げても説得力がなく、等身大のストーリーは描けません。目指す姿やパーパスは「自社らしいもの」であることが大前提です。
廣瀬:価値創造プロセス※4の提示は統合報告書では必須のコンテンツのひとつで、どの報告書にも掲載されていますが、IIRC※5のガイドラインに則って図式化すると独自性が伝わりにくくなります。
※4 価値創造プロセス:企業がどのようにして価値を長期的に創造するかを説明するフレームワーク
※5 IIRC:国際統合報告評議会、イギリスで2010年7月に創立された世界的な非営利組織、企業に統合報告書への理解促進とその作成の支援を目的に活動しており、価値報告財団(VRF)を経て2022年に国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)に統合されている
自社を評価する指標選びも
自社らしさを表現する手段になる
山内氏:ガイドラインが伝えようとしている本質が正しく理解されていないですよね。
例えば、人参と大根を食べると健康になると言われて、人参と大根をそのまま出しても誰も食べる気にはならないでしょう。昨今の人的資本の情報開示なんて、もはや大根化してしまっていて。人材育成の具体的な取り組みの説明ももちろん重要ですが、なぜ自社は人的資本の充実というテーマに取り組むのか、どのような思いで人的資本を高めようとしているのか、説明がない報告書が多いと感じています。
廣瀬:要はこういった素材をどう料理していくかが大切ということですね。
山内氏:自分たちの身の丈にあったパーパスを提示し、自分たちの仕事がどう社会と結びついているのかを説明したほうが、読者もこの会社なら世界をよくしてくれる、と納得してもらいやすいと思います。
そして、企業が目指す姿を掲げる際には、その目標の達成度を測る独自の指標を持つことが大切です。単に売上高やシェアを伸ばすだけではなくて、自社のビジネスに合ったユニークな指標を設けて、それを常に意識しながら活動することが重要です。
その指標を選んだ理由や、なぜそれが自社に合っているのかを きちんと説明できることが肝心なんじゃないかと思います。自社の実態に合わせて、オリジナルの成長の尺度を設定し、それに照らし合わせて事業展開していくというアプローチが大事なんです。
廣瀬:そういった報告書をつくるためには、私たちもお客様のことを理解し、伴走して制作していくことが必要ですよね。
さまざまなスキルとパートナーシップが、
統合報告書の制作には必要
山内氏:そうですね。長年こういったIRコミュニケーションをお手伝いしてきて、統合報告書の制作はどこかうまくいっていないと感じることが多いんです。
企業とコンサルファーム、IR会社、制作会社、デザイン事務所など、さまざまな関係者間の伝達がうまくいっていない印象があるんですよ。
梅村:具体的にはどういうことでしょうか。
山内氏:まず、企業が、自社の魅力や価値に気づいていないケースがあるんですよね。そういう時は、客観的な視点で判断した、企業の本当の価値をお伝えし、自覚してもらうことが大切です。
そして次に、企業がその価値を表明できたとしても、コンサルがその価値を正しく理解し、制作会社にきちんと伝達できていないことがその次の問題です。実はこの伝達の部分がうまくいっていないケースが多々あります。
企業に自社価値を自覚してもらい、その価値をコンサル経由で制作会社に適切に伝えていく、この一連の流れをスムーズに行えるようサポートすることが、御社の重要な役割なのかもしれません。
例えば企業が本当に伝えたいメッセージを汲み取り、それをコンサルファームやIR会社、制作会社などに適切に伝達したり、逆にそれらの会社から事業会社への提案や要望を汲み上げて調整したりすることが重要だと考えています。
梅村:自社の事業に誇りを持ち、業績も伸びているものの、その実績を適切にメッセージとして伝えきれていないという課題をお持ちの企業はいらっしゃいます。そこは自分たちにとってチャンスだと考えています。山内さんのようなパートナーと協力して、財務的な観点、投資家の視点から企業の本当の価値を引き出し、読み手に届くかたちで伝えることで、企業価値を高めるサポートができるのではないかと期待しています。
▼ DCDのサステナビリティ✕ブランディング
https://daishinsha-cd.jp/sbt/
廣瀬:企業の魅力をいかに引き出し、わかりやすく、魅力的に伝えるか。この部分は私たちの最も得意とする領域なので、クリエイティブで実現していきたいですね。なぜこのデザインが必要なのか、お客様にも納得していただいたうえで、従来の型に倣うだけでない統合報告書のかたちを追求できたらと思っています。
山内氏:統合報告書の制作では、パートナーシップが非常に重要です。さまざまな関係者が一つの目的に向かって価値観を共有し、協力していかないと、企業の本当の価値を適切に伝えることはできません。
御社がハブとなって関係者間の橋渡しを行い、共通の価値観のもと連携体制を構築することで、企業価値を最大限に引き出せるサポートができるはずです。
私自身もさまざまな関与者のコーディネート役を担い、関係者同士の意思疎通を円滑にしたいと思っています。
初めての報告書づくりは、
自社の強み、価値観を洗い出すことから
梅村:ぜひ協力して実現していきたいですね。
最後にこれから統合報告書を発行しようと考えている企業に向けてアドバイスをお願いします。
山内氏:アウトプットのイメージを急ぐよりも、まず自社の本当の価値が何なのかを徹底的に掘り下げる必要があります。自社の価値の本質、それがなぜ生まれたのか、なぜ持続可能なのか、そういった根本から議論を重ねることをおすすめします。
一般的なフレームワークにこだわらず、自社の強み、価値観に焦点を当て、みんなでゆっくり話し合いを重ねていくことで、自然とアウトプットのイメージが見えてくるはずです。
梅村:統合報告書は、作る過程で、自社をどう説明するのかを考えるので、情報がすごく整理されるというメリットはありますよね。まずは発刊してみて、ステークホルダーのフィードバックをもらいながら改善していく、という方法もあるかと思います。
また、お客様のなかには、投資家に配付するだけでなく、新入社員や中途で入社された方への教育ツールとして活用されている企業もいらっしゃいます。統合報告書は投資家中心とはいえ、本当にさまざまなステークホルダーとのコミュニケーションメディアとしての存在感が高まっていると感じます。制作する事が目的ではなく、どう機能させるかという視点からもDCDはご提案できればと考えています。